第八回(2016年度)福原賞

受賞者

業績題目

瀬片純市(東北大学大学院理学研究科)
(2004 年微分方程式の総合的研究講演者,2010 年春
函数方程式論分科会特別講演者)

渦糸にまつわる非線形分散型方程式の数学解析

廣惠一希(城西大学理学部)
(2010 年微分方程式の総合的研究講演者)

不確定特異点型常微分方程式に対する Deligne-Simpson 問題の研究

和田出秀光(金沢大学理工学研究域)
(2011 年微分方程式の総合的研究講演者)

臨界型函数不等式と関連する非線形楕円型問題に関する研究

【選考委員会構成】
柴田徹太郎(委員長),高岡秀夫,石毛和弘,立川篤,太田雅人,杉本充,清水扇丈,片山聡一郎,小池達也,内藤雄基,仙葉隆,岩崎克則,小薗英雄,小川卓克


受賞者

廣惠一希(城西大学理学部)
(2010 年微分方程式の総合的研究講演者)

業績題目

不確定特異点型常微分方程式に対する Deligne-Simpson 問題の研究

受賞理由

 廣惠一希氏は,複素領域の常微分方程式論,表現論,特殊函数論などの分野における優れた研究者である.特に,不分岐の不確定特異点型常微分方程式に対する加法的 Deligne-Simpson 問題を解決した業績は著しい.加法的Deligne-Simpson問題とは,与えられた Riemann 図式を持つ Riemann 球面上の既約な線型常微分方程式が存在するための判定条件を与えるという,基本的な問題である.この問題は,もともとの確定特異点型方程式の場合には,W. Crawley-Boevey 氏によって解決された.そこでは,箙多様体や Kac-Moody ルート系の概念を用いた美しい理論が展開されている.次には,当然,不確定特異点型方程式の場合が問題となる.この場合,Kac-Moody ルート系が非常に複雑になることは当初から認識されていたが, Philip Boalch 氏が方程式の空間が箙多様体にならない例を提出したことで,問題の本質的な困難さが認識されるようになった.廣惠氏は,不分岐のすべての場合について,方程式の空間を箙多様体の部分空間として構成し,更にその空間が空であるか否かを,方程式の対称性を駆使して判定することに成功した.こうして,不分岐不確定特異点型方程式に対するDeligne-Simpson 問題は解決された.これは,Boalch 氏や山川大亮氏らの先駆的な結果を土台にした非常に一般的な結果である.さらに廣惠氏は,不分岐の枠を超えて,より複雑な分岐不確定特異点を持つ場合についても興味深い研究を続けている.
 このように,廣惠一希氏の業績は,線形常微分方程式の分類理論へ向けて大きな道を開くものであり,応用上も重要な意味を持つ結果である.その優れた研究成果は,函数方程式論分科会福原賞にふさわしい.